【2.1】「よりよい疼痛管理のために」
  【2.1.1】「疼痛管理で医療者が陥りやすい誤り」
   

【2.1.1】:1
 除痛が得られない原因のうち、医療者の責任としてトワイクロスは以下のことをあげている。

1,癌には痛みは当然で、手に負えないものであると思っているから医療者は患者の痛みを無視する。
2,医療者は患者の疼痛の程度を理解しない。「元気な顔」の裏にある本当の姿を知り得ない。
3,医療者は鎮痛のためには余りにも弱すぎる鎮痛薬を処方している。
4,医療者は疼痛を訴えるときにのみ(頓用で)鎮痛薬を処方している。
5,術後の研究から得られた標準量が癌性疼痛管理に適切でないという認識が医療者にない。
6,医療者は処方した鎮痛薬の至適投与について患者に十分な指示を与えることが出来ない。
7,医療者は関連した鎮痛薬の各々の力価についての知識を持っていないので、一つのものから他のものへ処方変えするときに減量も増量もできない。
8,麻薬が必要なときになっても、医療者は嗜癖になることを恐れる。
9,医療者は本当に末期になるまでとっておく薬としてモルヒネをみなし、効果のない薬を不十分量処方している。
10,医療者は患者の痛みの経過観察に必要な痛みの評価表を持ち合わせていない。
11,麻薬が部分的にしか効果がない時に鎮痛に相乗効果を示す他の薬剤に知識がない。
12,鎮痛に薬以外の処置を必要とするときにでもその手段を用いない。
13,医療者は患者や家族の精神的な支えをしていない。
,在宅癌治療(1991),1,,6

 
【2.1.1】:2
 また、癌の痛みの治療における一般的な誤りを以下にあげる。

・癌による痛みとその他の原因による痛みを混同すること
・いくつもある痛みを1つ1つ把握せず、また別々に治療しないこと
・とくに、筋の攣縮による痛みに対して、薬以外の治療法を用いないこと
・少数だがオピオイド鎮痛薬に反応しない痛みがあることやモルヒネと他の薬との併用が必要な痛みがあることを理解していないこと
・薬を予定通り投与しないことや、患者や家族への指導を怠ること
・最適な投与量や投与方式に到達しないうちに薬を切り替えること
・不適当な鎮痛薬の併用、たとえば2つの弱オピオイド鎮痛薬の配合剤や強オピオイドと弱オピオイドの配合薬を使用すること
・ソセゴンがコデイン類よりも効力が大きいと信じていること
・ソセゴン、レペタンなどはコデインやモルヒネと併用すべきでないことを知らないこと
・モルヒネの処方をためらうこと
・レペタンからモルヒネに切り替えるとき同効量より少ない量にすること
・増量する代わりに投与間隔を短縮してしまうこと
・経口投与が可能なときに無用な注射をする事
・わずらわしい副作用、ことに便秘の監視を怠ること
・心理社会面や治療環境に配慮しないこと
・患者の言うことに耳を傾けないこと
,末期癌患者の診療マニュアル第2版(1991),,,13

 
【2.1.1】:3
 痛みに対する誤った考え方

誤「鎮痛薬は体に毒である」
正「痛みを我慢させることも身体に有害である」

誤「痛みは原因疾患の一症状に過ぎない」
正「原因疾患が軽微又は全くなくとも痛みは生じる」

誤「原因疾患の見あたらないときには「あなたの痛みは気のせいでしょう」「痛くないのに痛いと言っている」と説明する」
正「痛みは気分の一種であるので、原因を突き止められなくても患者が痛いと感じたら痛いのである」

誤「痛みは生体の警報および防御反応を示すものである」
正「警報や防御反応を示す例はさほど多くなく、症状の程度、進行度と相関しない」

誤「痛みは診断に必要なので簡単に鎮痛しない」
正「直ちに鎮痛すべきである。診断は痛み以外からもできるし、患者の協力が必要である」

誤「鎮痛は対処療法であり、根治にならない」
正「ほとんどの治療は対処療法であり、鎮痛により完治するものもある」

誤「痛みを止めることに専念すべきでない」
正「患者にとって一番つらいのは痛みである」
,緩和医療学(1997),,,35

#1
【2.1.1】:4
 「痛み自制内」の意味するもの
 癌疼痛治療を行う過程で、しばしば「痛み自制内」という表現を見聞きする。痛みの評価は患者本人が行うことが不可欠なのに、感想を述べているようなこの表現は、ほとんどまったく役に立たない表現である。「痛み自制内」という表現は、痛みがあることを意味するが、痛みの内容も、程度も、治療の必要性も伝えていない。「痛みの強さはそれほどでもなさそうなので、様子を見ています」程度の情報であるが、「それほどでもない」という内容は、患者自身が「痛みはあっても生活上の影響はなく、治療はこのままで十分です」と評価することとはかけはなれている。癌の痛みを、患者の立場に立って解決しようと願うのであれば捨ててしまうべき表現である。
,がん疼痛治療のレシピ(2002),,,7

*5
【2.1.1】:5
 麻薬を使用するにあたり、法的規制を上回る院内自主規制は不要である。
,医療用麻薬の利用と管理97’/98’,,,62

#1
【2.1.1】:6
 痛み治療と医の倫理
 万一、正しい方法で使用した鎮痛薬が死を早めたのではないかと感じることがあったとしても、それは過量投与により意図的に命を絶つこと(安楽死)と同じことが起こったのではない。尊厳を保った日々の生活を維持していくのに必要な治療手段にさえ耐えられないほど患者の状態が悪化していたことを意味するだけである。患者の命を縮めるかも知れないと恐れることを理由にして、鎮痛薬の投与を控えてしまうことは倫理的に正当化されない。
,がんの痛みの鎮痛薬治療マニュアル(1994),,,1

     
  【2.1.2】「癌患者の痛みの訴えを信じること」
    【2.1.2】:1
 痛みの強さや治療による痛みの消長について患者が感じていることに耳を傾けることが重要である。患者は痛みについての情報を医療側に伝える役割があり、このために患者も治療チームの一員であると考えられる。患者の訴えが医療側が考えているものと大きな差があるときは、その理由はなにかを検討すべきで、安易に「大げさな訴えの患者」と独断的に判断すべきではない。処方内容をどう改訂したかを患者に知らせ、その結果の除痛状態を翌日必ず患者に聞くことを心がける。
,癌患者と対症療法(1995),6,1,53

 
【2.1.2】:2
 痛みは患者の心理因子が大きく作用する。しかし、注意すべきことは、心理影響による痛みと曲解することは最も大きな過失となり得ることである。そうではなく「痛む」と言っている患者のことばをありのまま受け入れることが基本である。
 痛みは本来、心身両面の体験であって、「患者本人が痛いと言っているもの」と定義するのが最もよいということを、忘れてはならない。具体的にはまず「痛い」という訴えを十分に聴き、その上で診察し、痛みと関連づける所見が見あたらない場合は、とりあえずの除痛薬を投与しつつ様子を見ることを患者に伝え、他の因子を探すべきである。不安や寂しさゆえの痛みの訴えの増強は、このような対応の経過と共に焦点が絞られてくることが少なくない。
,がんの症状マネジメント(1997),,,4

#1
【2.1.2】:3
 「笑い」は慢性の癌性疼痛に効果的
 「どのように疼痛に対処していますか」ということを53人の癌患者に質問したのです。鎮痛薬を用いてはいるが、そのほかに「自分自身で疼痛にどう対処しているか」という質問です。その結果、「笑い」が慢性の癌性疼痛に効果的なものであるという答えが返ってまいりました。患者が笑ったり誰かに話しかけたりする、という様子を見て、疼痛を訴えていないのではないか、というように考えてしまうかもしれません。しかしそれは患者が一所懸命疼痛を我慢しようとしている行為である、ということも考えられるわけです。 したがって、覚えておかなければならないことは、患者が「痛い」と訴えた場合にも、なかなか信じ難いような状況があるということです。それは患者が、痛みがあることを感じさせるような行動を必ずしもとらないからです。また痛みが何週間も続くと、患者自身が痛みを表に出すことを止めてしまうことがあるのです。その際にやはりナースとしては疼痛の存在を認識し、理解できなければなりません。疼痛を表現する訴えがないからといって、疼痛がないというわけではないのです。
,ホスピスケアのデザインPART2 疼痛と告知(1993),,,10
     
 

【2.1.3】「患者の痛みを精神的なものとして片付けてないか」

    【2.1.3】:1
 「痛みが精神的なもの」という表現は、了解不能な場合に慣例的に用いられるが「精神的な痛み」とは全く別のものである。感情的なことで傷つき心が痛むことは誰でも理解できるはずである。なかなか良くならない痛みに対して、何か見落としはないか、何か軽減できる方法はないかを、繰り返し問い続けることが、よりよい鎮痛に結びつく唯一の方法である。
,がんの症状マネジメント(1997),,,22

 
【2.1.3】:2
 痛みは、感情や気分などの精神的な因子と切り離して考えることは出来ない。痛みは患者の気分を悪くするであろうし、イライラや不安を引き起こす。気分が悪ければ、痛みが気になり、強く感じるものである。また、気分が良ければ、より弱く感じることが多い。これは痛みの特性である。
,がんの症状マネジメント(1997),,,22

#1
【2.1.3】:3
 疼痛と何らかの精神症状が共存している場合、双方の評価が難しくなる。抑鬱や不安などの心理的問題が、癌患者の疼痛体験を増強する要因であることを示唆した報告も散見されるが、疼痛を有する癌患者の精神症状を評価する際には、まず最初に精神症状はコントロール不良の痛みに起因するとみなす必要があることが繰り返し強調されている。癌患者が痛みを訴える場合、原因となる器質的障害が十分に除外されるまで器質的原因が存在すると考えねばならず、また、純粋に心理的要因による疼痛は癌患者にはまれである。疼痛からの解放で精神症状が消失することも多い。
,オピオイドのすべて(1999),,,145
     
  【2.1.4】「痛みにプラセボを用いるのは医療者の無知」
    【2.1.4】:1
 痛みを精神的なものと判断した場合、プラセボを使う手法がしばしば見られる。痛みの判定にプラセボを使うことは、医療側の無知であり、絶対になくされるべき行為である。プラセボの投与により約30%のヒトに鎮痛効果が見られる。これは治療への期待と、医師または病院への信頼関係などによって生じる。プラセボに反応したか否かによって、痛みの原因や質を決定することは出来ない。ましてや精神的な痛みなどと言うことは論外である。
,がんの症状マネジメント(1997),,,24

*5
【2.1.4】:2
 患者の痛みが本当か否かを判定するためにプラセボを用いてはならない。特に慢性疼痛治療チームは、プラセボを絶対使用しない方針を徹底しなければならない。痛みの原因は複雑で客観評価はできないため、いろいろな鎮痛薬を投与しても痛みが取れず、困り果てた医師は患者の痛みの訴えを心因性ではないかと疑問を抱き、プラセボの投与を考えることを散見してきた。しかしながら、筆者の治療経験では、大半は医師の薬剤の選択が不適切または不十分であったことが原因で、患者の異常心因反応が痛みの原因であったことはない。
,ターミナルケア(1996),6,1,78
     
  【2.1.5】「診断に患者の痛みを利用しない」
    【2.1.5】:1
 癌治療効果の判定のために、モルヒネを減量あるいは中止し、痛みが出現するかどうかによって効果を判定することは、明らかに不適切である。癌治療の効果判定は、患者の苦痛を伴わない方法によっても十分可能なはずである。
,緩和医療学(1997),,,49

 
【2.1.5】:2
 鎮痛薬の使用によって痛みが緩和すると、患者にとり検査がはるかに受けやすくなる。痛みが緩和しても診断しにくくなることはないので、痛みの原因が確定するまで鎮痛薬を使わないという方針は決してとるべきではない。
,がんの痛みからの解放 第2版(1996),,,12
     
  【2.1.6】「早期除痛により難治性疼痛の生成を防止することが出来る」
    #1
 癌患者の痛みの大半が持続性であるが、長期間、痛みを放置することは患者自身にとって不利益なばかりでなく、難治性の頑固な痛みへと変化する。難治性疼痛の生成に関する仮説には、痛みの悪循環説、中枢性パターン生成理論、中枢神経系の可塑性などがあるが、いずれも難治性疼痛の生成防止には鎮痛薬などによる早期除痛が重要としている。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,45
     
  【2.1.7】「痛みを止めないと癌の治療にも耐えられなくなる」
     適切な痛みの治療がどうしても必要なのは、これがQOLのためばかりでなく、病気そのものと闘うエネルギーのためでもある。痛みの治療が十分でないと、患者は癌と闘い、抗癌治療を受けるためのエネルギーが出にくくなる。これは不十分な痛みの緩和が結果として癌治療の土台を危うくするという意味である。極めて重要な点は、痛みは不必要なものであり、物事を悪化させているだけであるということ。痛みの治療は火急の問題とすべきであって、後回しにしてはいけない。痛みの治療は癌そのものの治療と同じぐらい大切である。痛みが癌に影響を与えるからである。この二つを分けて考えるべきでない。
,がんの痛み治療のすべて(1996),,,66
     
  【2.1.8】「癌性疼痛の適切な診断のために」
    #1
【2.1.8】:1
 「WHO方式癌疼痛治療法」は、以下の癌患者の痛み診断手順を示した。

 癌患者の痛みの診断手順
(1)患者の痛みの訴えを信じること
(2)痛みについて話し合いから始めること
(3)痛みの強さを把握すること
(4)痛みの経過を詳しく問診すること
(5)患者の心理状態を把握すること
(6)理学的な診察をていねいに行うこと
(7)必要な検査を指示し、自ら検査結果を判定すること
(8)薬以外の治療法についても考えること
(9)鎮痛効果を監視すること

この手順を無視すると、しばしば誤診に陥ったり、疼痛管理が不適切になると警告している。
,がん患者の訴える痛みの治療(2001),,,23

 
【2.1.8】:2
 癌患者の痛みであるからといって、癌による痛みと判断してはならない。癌自体の痛み以外に、癌に関係のない痛み、特に衰弱や治療に関連した痛みもある。便秘と衰弱に関連した痛みを、腹部転移によるものと即断してはならないし、また腰痛を腰椎への転移と即断し、それが単なる骨関節症であり、体位の工夫とマッサージで寛解した例などはしばしば見られる。もちろんその反対もあり得るため、十分留意する。
,がんの症状マネジメント(1997),,,4
     
  【2.1.9】「在宅疼痛治療について」
    【2.1.9】:1
 癌患者は家族に囲まれ、普通の家で、一日のリズム、一週間のリズムの中に暮らす方が痛みの程度も軽い。できることなら、在宅治療の方が効果は高い。
,臨床と薬物治療(1990),,58,24

 
【2.1.9】:2
 在宅癌治療の場合では、モルヒネとステロイドの使い方が地域にまだ広まっていない。ステロイドで食欲不振がせっかくよくなってもホスピスから帰ると、地域の医師がステロイドを危険視して服用を止めさせてしまうことがある。
,癌患者と対症療法(1995),6,1,14

 
【2.1.9】:3
 癌患者を自宅で治療する場合、常に配慮するべきはいわゆる癌性緊急症である。それまで順調に治療を行っていた患者が1〜2日の間に急変することは稀でない。予想される症状や簡単な処置方法、緊急連絡法についてあらかじめ患者と家族によく説明しておく必要がある。
 癌性緊急症としては、呼吸困難、疼痛の増強、意識障害.錯乱、尿閉、骨折、出血、上肢の麻痺.脱力、半身麻痺などがあげられる。
,臨床と薬物治療(1992),,74,57

 
【2.1.9】:4
 終末期癌患者の場合、安定した除痛が得られている場合でも、夜間、次第に痛みが増強しパニックになることがある。原因としては服用忘れや吸収障害などの服薬条件によるものと、体動による骨折や癌の進行に伴うものが考えられる。在宅治療において、このような場合は以下のように対処するよう指導する。
1.モルヒネ経口薬の1.5〜2倍量を服用。
2.消炎鎮痛薬、特に坐薬を併用する。
3.睡眠剤、精神安定剤の2倍量を服用。
4.硬膜外チューブが入っているときはそれを利用する。
以上で激痛が止まらなければ連絡してもらう。
,終末期医療(1991),,0,167
   
 

 

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