【2.2】「モルヒネによる疼痛管理における基本的事項」
  【2.2.1】「モルヒネ服用時の患者指導」
   

#1
【2.2.1】:1
 癌疼痛治療でもっとも重要なことのひとつは、患者に治療の内容を正確に説明し治療が理解された上で投薬を開始することである。薬剤の服薬を必要としているのも、副作用を感じるのも、痛みの治療を受けるのも患者本人であり、家族にだけ話してすませてしまうことは、はじめから治療が適切に行えないように仕向けているようなものである。
 患者がモルヒネを含めて疼痛治療を正しく理解していないと、わずかな副作用に過剰に反応して拒薬したり、モルヒネによって鎮痛が維持されているにもかかわらず、こっそり薬を減量したり休薬することがある。また増量を恐れて痛みを過少申告する場合もある。
 過量投与を避ける目的であっても、医師が「あまり使わないほうが………」などの曖昧で目的のはっきりしない説明や指示をすると、患者は処方された鎮痛薬が有害であると感じてしまう。このような言葉足らずの説明が、長期にわたって患者を苦しめできた例は数多く見られる。
,がん疼痛治療のレシピ(2002),,,32

#1
【2.2.1】:2
 服薬指導でモルヒネについて説明するべきポイント
 (1)使用する鎮痛薬はモルヒネである。
 (2)鎮痛効果が維持できるように(効果が途切れないように)定期的に内服する。
 (3)患者ごとに必要量が違うので、鎮痛効果を見ながら量を調節していく。
 (4)長期間の内服で効果が減弱したり、際限なく増えていくことはない。
 (5)疼痛治療でモルヒネを使用しても、麻薬中毒や廃人にはならない。
 (6)病状の進行によって疼痛が増強すれば、モルヒネの増量が必要になる。
 (7)3〜6割の患者で飲みはじめに嘔気・嘔吐が生じるので、予防的に制吐剤を投与する。
   1〜2週間で制吐剤は不要または減量できる。
 (8)便秘は飲みはじめから長期間持続するので、便秘の治療も同時に始める。
 (9)寿命が縮まるような副作用はこの治療では生じない。
 (10)モルヒネは胃を荒らすことはない。
,がん疼痛治療のレシピ(2002),,,33

      参照−【7.36】「緩和医療とコミュニケーション」

     
  【2.2.2】「製剤・投与経路によるモルヒネの効果の違い」
    【2.2.2】:1
 鎮痛薬投与の第一選択は経口投与である。しかし、病態によってはそれが不可能なことも少なくない。病態に最も適切な投与経路を選択する必要がある。基本的には、1.経口、2.経直腸、3.経静脈.皮下、4.硬膜外の順に考える。

 モルヒネ製剤を服用すると、すぐに薬が吸収されるのではなく、剤型によってモルヒネの吸収速度・量が異なる。モルヒネ水を内服すると、大体10分くらいで吸収を開始し、30分くらいで最高血中濃度に達する。MSコンチン錠は内服してから、大体1時間くらいから1時間半くらいたってから吸収が開始されて、約3時間後に最高血中濃度に達する。アンペック坐剤は、肛門から入れて大体30分後くらいから吸収が開始されて、約1.5時間後に最高血中濃度に達する。このことをよく理解し、また患者に説明をしておかないと、例えば疼痛がひどくなったときにMSコンチンを増量しても1時間以上効果が出ないため、患者の信頼を失うことにもなる。
,Cancer Pain Symposium in Tokyo(1994) より

#1
【2.2.2】:2
 MSコンチン、カディアンの血中濃度が最高に達するまでの時間(Tmax)は、前者(30 mg内服時)では2.7時間、後者(60 mg内服時)では7.3時間である。
,わかるできるがんの症状マネジメントU(2001),,,23

#1
【2.2.2】:3

モルヒネおよびフェンタニル製剤の薬物動態比較一覧
          吸収開始 最高血中濃度 効果判定 作用時間 定期投与間隔
モルヒネ散      30分  30分〜1時間  1時間  3〜5時間  4時間
モルヒネ水      30分  30分〜1時間  1時間  3〜5時間  4時間
モルヒネ速効錠    30分  30分〜1時間  1時間  3〜5時間  4時間
MSコンチン      1時間   2〜4時間  2〜4時間 8〜12時間 12(8)時間
モルペス       1時間   2〜4時間  2〜4時間 8〜12時間 12(8)時間
カディアン    30分〜1時間  6〜8時間  6〜8時間  24時間  24(12)時間
アンペック坐剤    20分    1〜2時間  1〜2時間 6〜10時間  8時間
モルヒネ持続静注   直ちに   直後    10分
モルヒネ持続皮下注  数分   10〜20分  20〜30分
モルヒネ硬膜外    30分   1時間以上   1〜3時間 8〜12時間  8〜12時間
モルヒネくも膜下  (資料なし)  1時間  (資料なし) 12〜18時間 (資料なし)
デュロテップ     2時間     45時間   24時間    72時間  72時間
,がん疼痛治療のレシピ(2002),,,56

#1
【2.2.2】:4
モルヒネの製剤および投与経路による効果比較一覧
       「経口モルヒネの効力を"1"としたときの効力比」
モルヒネ散      1
モルヒネ水      1
モルヒネ速効錠    1
MSコンチン      1
モルペス       1
カディアン      1
アンペック坐剤    2
モルヒネ持続静注   3
モルヒネ持続皮下注  3
モルヒネ硬膜外   15〜20
モルヒネくも膜下   100
,がん疼痛治療のレシピ(2002),,,56
     
  【2.2.3】「モルヒネの血中濃度と薬理作用の発現」
   
 

                                                   
        モ |       呼吸抑制作用                    
        ル |   ----------------      
        ヒ |        (毒性発現域)                 
        ネ |                                       
        血 |     催眠作用                     
        中 |---------------------------------      
        濃 |                                       
        度 |                                       
           |        (鎮痛有効域)                 
           |                                       
           | 鎮痛作用.便秘作用.催吐作用         
           |---------------------------------      
           |                                       
           |          (無効域)                   
           +----------------------------------     
        0                                         
     
  【2.2.4】「モルヒネの大量投与とその是非」
    【2.2.4】:1
 癌性疼痛に経口モルヒネ60mg以下で痛みがコントロールできる患者は約半分、180mg以下で75%、240mg以下で約80%の患者の痛みがコントロールできる。なかには5400mg/日のモルヒネの経口投与で痛みが何とかおさまった患者もいる。この患者は5400mgを2ヶ月飲みながら自宅で生活し、週に2回ほど会社に通った。もちろん意識は完全に鮮明であった。
,ターミナルケアとコミュニケーション(1992),,27

#1
【2.2.4】:2
 モルヒネ大量投与例
 持続静注で1400mg/日を約2ヵ月間にわたって投与し、意識状態も通常に保たれたまま疼痛をコントロールし得た例がある。また、一時的に2000mg/日に達しながらも意識清明で車いすにて面会室への移動が可能であった例や、4050mg/日まで増量した例も報告されている。その他にも、胃癌患者に160mg/日より漸増し、6400mg/日まで増量した例や、下咽頭癌の局所再発患者で頚部への腫瘍の浸潤による激しい疼痛のために、MSコンチン錠40mg/日より開始し、持続点滴静注で7200mg/日まで増量して良好なコントロールを得た例も報告されている。さらに、詳細な記載はないが、わが国において12000mg/日まで増量した例もある。
,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,217

 
【2.2.4】:3
 難治性疼痛にモルヒネの大量投与がされていたことが少し前まであったが、最近では淀川キリスト教病院ホスピスにおいては、1日1000mgのモルヒネ投与を必要とする患者は非常に希となっている。これは鎮痛補助剤の使用に関する様々な知識が出てきたためであり、数種類の鎮痛補助剤をうまく使えばモルヒネの量をもう少し抑えても痛みをうまくコントロールされると思われる。
,癌患者と対症療法(1996),7,,14

      参照−【3.1.5】「モルヒネ増量のターニングポイント」
   
 

 

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