| 【4.3】「モルヒネの副作用としての嘔気、嘔吐」 | |
| 【4.3】:1 モルヒネによる嘔吐は原則として、投与経路による発生率の差はない。すくなくとも1/3の患者に発生するといわれており、制吐薬を必要としないのは、モルヒネ投与患者の1/3ともいわれ、発生頻度が高いので、モルヒネ投与開始と同時にすべてのモルヒネ投与患者で制吐薬を併用しても良いとする意見もある。軽度の嘔気を感じてもそれを訴えない患者がいることも考慮しておく。 催吐作用への耐性は比較的早く発生するため、制吐薬が必要な期間はモルヒネの投薬開始からおよそ2週間であることが多い。2週間たったら制吐薬を中止あるいは減量しても大多数の患者で嘔気は起こらない。 制吐剤にも副作用がありうるので、その場合には他剤に切り替える。制吐剤を2剤併用すると効果が増強する。 ,臨床と薬物治療(1990),,58,44 【4.3】:2 モルヒネによる悪心嘔吐は投与開始後1週間が最も著しく、その後徐々に軽減して約2週間で消失するか、軽減する。この期間に投与を中止すると嘔気は消失するが、再開するとまた出る。このように投与と中止を繰り返していてはいつまでたっても嘔気からは解放されない。コツはモルヒネの初回量を十分(1日40mg以上)投与すること。少量では除痛が不十分で副作用だけ出て患者が拒否してしまう。患者に一度十分な除痛を経験させると「この程度の嘔気なら痛みより我慢し易い」といって服薬を希望する。 ,癌の痛みハンドブック(1992),,99 #1 【4.3】:3 モルヒネによる吐き気は通常、耐性が早期についてくる場合が多いが、最も大きな問題はそれが患者に説明されていないことである。そして、それに対する対策があり、予防的にそれを投与することによって嘔気を経験することもなくなることを説明することによって、副作用に対する恐れは軽減させることができる。 ,オピオイド治療(2000),,,50 【4.3】:4 モルヒネによる吐き気には3つの原因がある。 (1)第四脳室にある化学受容器引き金帯(CTZ)を直接刺激し、その刺激が嘔吐中枢(VC)に伝わり嘔吐を引き起こす。 (2)前庭器を介してCTZを間接的に刺激し、VCに伝達される。 (3)胃前底部の緊張により運動性が低下し、胃内容物の停留が起こる。この停留による圧増大が求心性神経を介してCTZ、VCを刺激する。 などが挙げられる。 モルヒネによるこうした吐き気・嘔吐は、投与初期や増量時にみられる。しかしモルヒネの投与量が適正である場合、連用により耐性が生じ、吐き気・嘔吐は消失していく。 ,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,112 【4.3】:5 吐き気の対策マニュアル(国立がんセンター中央病院薬剤部)(一部改変) モルヒネ使用中の患者から吐き気の相談があったとき 【ポイント】状況の把握(発現時間、増量の様子等)、受診可能かどうか 「服用して何時間経過後に吐き気を生じたか?」 吐き気の出現時間とTmaxが重なっている場合。 参考)モルヒネ水:30分〜1時間 アンペック:1〜2時間 MSコンチン:2〜4時間 →モルヒネがCTZを直接刺激していると考えられる ●制吐薬としてドパミンD2レセプター拮抗薬を推奨する(セレネース、ノバミン、 ウィンタミン等)。 ●Cmaxを低下させるようなモルヒネ投与法への変更→1日量を変更せずに投与回 数を増やして1回量を減量する。 ●当院受診不可能な場合:近医で制吐薬を処方してもらう。 「どのようなときに吐き気を生じたか?」 乗り物に乗ったとき、あるいはその後に吐き気を感じた(乗り物酔いのような吐き 気)。 普段横になっているのに立って体を動かしたときに起こった(ふりむく、起き上が る、眼球を動かすなどの体動時)。 →モルヒネが前庭器を過敏にしていることが考えられる(前庭器からの刺激による 吐き気・嘔吐) ●制吐薬として抗ヒスタミン剤を推奨する(トラベルミン等)。 ●当院受診不可能な場合:トラベルミンならば、薬局でも購入可能。 「食事との関係は?」 食事時間のときや食後に吐き気が生じた。 →モルヒネによる胃内容物の排泄抑制や胃噴門部の緊張の高まりが原因と考えられ る ●モルヒネのTmaxと食事の時間をずらすようにする。 ●制吐薬として消化管の運動促進薬(ナウゼリン、プリンペラン等) その他 上記のいずれでも対処できない場合。 ●作用機序は不明であるがステロイド剤が効く場合もある。 ,モルヒネによるがん疼痛緩和(1997),,,112 ,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,117 #1 【4.3】:6 モルヒネと抗癌剤による吐き気の違い 嘔吐中枢(VC)が刺激される経路は大さく4つに大別される。 (1)chemoreceptor trigger zone (CTZ)が刺激されてVCに至る経路。 (2)消化管や肝の神経終末から刺激が迷走神経や交感神経の求心路を通り、一度CTZを経て、あるいは直接VCに至る経路。 (3)前庭器官からの刺激がVCに至る経路。 (4)大脳皮質からの刺激がVCに至る経路。 モルヒネと抗癌剤の吐き気・嘔吐の発現機序は同じであり、判断の基準がなく識別するのが困難である。ただし、抗癌剤の吐き気・嘔吐は上記の4つすべてに起因するが、モルヒネの場合には(1)〜(3)が原因であり、(4)のケース、すなわち予測性の嘔吐(anticipatory emesis)を惹起すると明記した文献や書籍はみられない。したがって、化学療法時の制吐療法には大脳皮質に作用するベンゾジアゼピン系のロラゼパム(ワイパックス)、セロトニン拮抗薬などが処方されるほかは、モルヒネの場合も同じ制吐薬が処方される。したがって、吐き気・嘔吐が発現している場合、(1)原因薬物の催吐作用が強く、それに対応する制吐薬の投与量が十分でない。(2)上記4つの作用経路をカバーできるように複数の制吐薬を併用する。の2点を考慮する。 ,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,274 #1 【4.3】:7 モルヒネによる嘔気・嘔吐は中枢への直接作用によるものであるので、中枢作用の強いプロクロルぺラジン(ノバミン)やハロぺリドール(セレネース)が第一選択であり、末梢作用の強いメトクロプラミド(プリンぺラン)やドンぺリドン(ナウゼリン)は効果が弱い。 ,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,49 【4.3】:8 モルヒネの吐き気対策として淀川キリスト教病院ホスピスでは、モルヒネ製剤を使うときは始めからノバミンを同時にスタートしている。 ,ターミナルケアとコミュニケーション(1992),,28 【4.3】:9 モルヒネによる嘔吐はドパミンD2受容体を介し、ノバミン、ウインタミン、セレネースなどが有効。一方、5−HT3受容体拮抗薬であるカイトリル、セロトーン、ゾフランは無効である。 ,今月の治療(1996),4,4,115 #1 【4.3】:10 ・(ノバミン)【適応外】 錠・散 1回投与量 5〜10mg 8時間毎 注 投与量 5〜10mg 持続 鎮静作用は弱く、錘体外路症状は少ない 第一選択薬 ,がん疼痛治療のレシピ(2002),,,72 #1 【4.3】:11 ・(プリンペラン) 錠・散・シロップ 1回投与量 5〜10mg 8〜12時間毎 注 投与量 5〜10mg 持続 鎮静作用、錘体外路症状ともに稀 効果が弱い。 ,がん疼痛治療のレシピ(2002),,,72 #1 【4.3】:12 ・(ナウゼリン) 錠・細粒・DS 1回投与量 5〜10mg 8〜12時間毎 坐剤 1回投与量 60mg 8〜12時間毎 鎮静作用、錘体外路症状ともに稀 効果が弱い。 ,がん疼痛治療のレシピ(2002),,,72 #1 【4.3】:13 ・(コントミン)【適応外】 錠・散 1回投与量 5〜12.5mg 8〜24時間毎 注 投与量 10〜50mg 持続 鎮静作用は強く、錘体外路症状の出現は中程度 鎮静に注意する ,がん疼痛治療のレシピ(2002),,,72 【4.3】:14 ・(ウインタミン)【適応外】 内服1日10〜25mgを4〜8時間毎に投与する。 不安を取り除くことにより鎮痛効果を増強させる。向精神症状作用あり。 ,癌の痛みハンドブック(1992),,121 #1 【4.3】:15 ・(セレネース)【適応外】 錠・顆粒 1回投与量 0.75mg 12〜24時間毎 注 投与量 2.5〜5mg 持続 鎮静作用は強く、錘体外路症状の出現は高頻度 アカシジアなどの副作用あり ,がん疼痛治療のレシピ(2002),,,72 #1 【4.3】:16 ・(トラベルミン) 錠 1回投与量 1錠 8時間毎 注 投与量 1A 頓用 鎮静作用、錘体外路症状ともになし めまい、体動時の嘔気・嘔吐に ,がん疼痛治療のレシピ(2002),,,72 #1 【4.3】:17 ・(ドラマミン) 錠 1回投与量 50mg 6〜8時間毎 鎮静作用、錘体外路症状ともになし めまい、体動時の嘔気・嘔吐に ,がん疼痛治療のレシピ(2002),,,72 #1 【4.3】:18 ・(ピーゼットシー)【適応外】 錠 1回投与量 2〜4mg 1日3回 制吐作用も強いが、鎮静作用も強い。ノバミン、セレネース無効時に少量から ,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,50 【4.3】:19 ・(ドロレプタン)【適応外】 0.05〜0.1mg/kg(筋・静注) ウインタミン、セレネースより制吐作用は強いが、強い鎮静作用があり注意が必要。 ,癌の痛みハンドブック(1992),,134 #1 【4.3】:20 モルヒネの副作用としての吐き気のコントロール (1)消化のよい食事を取る。刺激や匂いの強い食物は避ける。 (2)音楽を聞いたり、軽い体操をしたりして精神的な緊張を取り、リラックスした気持ちを持続できるような環境を作る。 (3)吐き気が起こってしまったときには、右を下にして横向きに寝て、腹式呼吸をする。また、冷水でうがいをするなど口腔内を清浄、清涼にする。冷気にあたったり部屋の空気を入れ換える。 こうした生活の中での工夫も吐き気の予防には有効なこともあるが、吐き気・嘔吐が治まらないようなときは、制吐薬の適切な使用により予防、治療しなくてはならない。 ,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,271 【4.3】:21 悪心嘔吐に食事の工夫も予想以上に効果がある。モルヒネ投与開始数日は献立を工夫すると乗り切りやすい。 また、食前に胃部膨満感が残っているような患者では制吐剤に消化剤や、健胃散.コランチルなどの制酸剤を加えるとよりいっそう効果的なことがある。 ,癌の痛みハンドブック(1992),,99 【4.3】:22 モルヒネによる嘔吐は胃が膨満していると出やすいので1回の食事量を減らし、食事回数を増やす。食後1〜2時間は安静にして胃がからになってから動くと良い。気が紛れると嘔吐しにくいので食後はテレビ、読書などで気分転換する。 ,癌の痛みハンドブック(1992),,99 【4.3】:23 モルヒネ投与を受けている患者の少数にはセレネース等によっても改善しない嘔気、嘔吐を生じることがあり、モルヒネの副作用としての胃内容物の排出遅延によると考えられる。そのときはセレネースの代わりにプリンペラン10mg/回、8時間毎で開始し、最大20mg/回4時間毎に向けて増量するとよい。さらに嘔吐が続くときは数日間にわたりプリンペラン60mg/日を持続皮下注でモルヒネと併用するとよい。 ,がんの痛みからの解放 第2版(1996),,,36 #1 【4.3】:24 セレネース、ノバミンで制吐効果が得られない場合。併用例「プロクロルペラジンとトラベルミン」、「プロクロルペラジンとトラベルミンとドンペリドン」、「ハロペリドールとトラベルミン」等。これ以外にもステロイドが有効な場合があり、特にリンデロン坐剤が効果のあった症例を経験している。さらに、MSコンチン錠からアンペック坐剤へ剤形を変更することで対応できた症例もあり、MSコンチン錠に比ベアンペック坐剤の方が嘔吐の発生頻度が少ない印象がある。また、吐き気により服用できない場合など、経口から血中濃度の変動の少ない持続注射への変更により吐き気が消失した症例もある。十分な制吐療法にもかかわらず管理できない症例ではモルヒネ不耐性も考慮し、他のオピオイドヘの変更を検討する。 ,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,272 *5 【4.3】:25 モルヒネの副作用としての治りにくい嘔気、嘔吐に対しては、ゾフラン8mgを錠剤、注射で朝夕に、または持続注入を検討する。 ,疼痛コントロールQ&A(1998),,,71 #1 【4.3】:26 ノバミン、セレネース、プリンペラン、トロペロン、トラベルミンなどの制吐薬が無効な場合で、リンデロン坐剤が有効な症例もある。 ,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,118 【4.3】:27 ステロイドは嘔吐の抑制の目的で使われ、時に極めて有効である。投与はメドロール16〜32mg(経口)あるいは125mg(静脈内)、プレドニン15〜60mg(経口)、デカドロン3〜12mg(経口)などの報告がある。 ,ターミナルケア(1995),5,4,258 【4.3】:28 モルヒネ投与中の患者で、嘔気などが出現してきたら、肝・腎機能と共に高カルシウム血症をチェックする必要がある。 ,ターミナルケア(1995),7,1,6 #1 【4.3】:29 患者の状態が悪化し、肝機能や腎機能障害を伴うようになると、モルヒネの代謝、排泄が妨げられ、副作用が強く現れるようになる。モルヒネの代謝産物であり鎮痛作用を有するM6Gの蓄積によるところも大きい。順調に疼痛管理が行われていた患者が、モルヒネの増量もないのに吐き気を訴えるようになったら、このような機序も考えられるので減量を検討する。 ,がん終末期・難治性神経筋疾患進行期の症状コントロール(2000),,,87 【4.3】:30 経験的に嘔気が問題となるのは1日60mg前後のモルヒネを投与していることが多い。 ,モルヒネの副作用対策(1990),,5 ,最新医学(1990),45,6,1248 *5 【4.3】:31 モルヒネによる嘔気に、トロペロンを1回1mg程度投与した。保険適応はないが強力な制吐作用を有し、他剤で制御困難な吐き気にも対処できた。テグレトール、バルビツール酸系、エピネフリンなどとの併用には注意を要するという。 ,ターミナルケア(1998),8,2,98 【4.3】:32 フェノチアジン系薬剤(ウインタミン、ノバミン)はモルヒネの悪心を改善するが、その副作用(低血圧と鎮静)を一層悪化させる。長期の連用による晩発性ジスキネジアには注意。 ,癌の痛みハンドブック(1992),,121 #1 【4.3】:33 セレネース、ノバミン、ウインタミンでは、副作用として錐体外路症状が起こり得る。錐体外路症状が出現した場合には制吐薬の減量あるいは中止が望ましいが、吐き気・嘔吐の再発を招きかねないため、減量または中止が困難な症例もある。そのような場合には塩酸トリヘキシフェニジル、塩酸ビペリデンあるいはプロメタジンなどの抗コリン薬を併用することで、制吐効果を損なわずに、錐体外路症状の緩和が図れる。 ,「モルヒネによるがん疼痛緩和」改訂版(2001),,,116 *5 【4.3】:34 通常フェノチアジン系の薬剤の制吐作用は同じような効果があるが、精神安定効果については薬によって大きな差異がある。制吐効果のみ必要な場合、通常ノバミンを選択する。ノバミンは経口投与から非経口投与に変える場合、同じ与薬量でよいが座薬として投与する場合は、24時間投与量は2倍にすべきである。 ,終末期ケアハンドブック(1993),,,124 参照−【7.4】「緩和医療における向精神薬の使用上の注意」 【4.3】:35 癌性疼痛及び吐き気のコントロールにモルヒネやレペタンとセレネースやプリンペランの混合注射は可能である。 ,ターミナルケアマニュアル第2版(1992),,,149 ,ターミナルケアマニュアル第3版(1997),,,173 *5 【4.3】:36 抗ヒスタミン薬のすべてが制吐作用を持つわけではないが、数種の抗ヒスタミン薬には制吐作用がある。作用機序は延髄の嘔吐中枢への直接作用であり、このため全てのタイプの嘔吐に有効である。 ,終末期ケアハンドブック(1993),,,125 【4.3】:37 まれではあるが、制吐薬によってもモルヒネの吐き気がコントロールできずに、モルヒネの内服を断念するときがある。このようなときは、適応があれば硬膜外鎮痛法に切り替える。硬膜外鎮痛法で使用するモルヒネは内服や坐薬の与薬量よりはるかに少量なので、吐き気をきたすことはあまりない。また、持続皮下注入法に切り替えて、吐き気が消失したこともある。 ,がん終末期の症状コントロール(1995),,,56 【4.3】:38 制吐剤の使用やモルヒネの投与経路の変更などでも改善しない嘔吐、嘔気の場合、レペタンやフェンタネストなどの代替薬を考慮する。 ,ターミナルケア(1995),7,1,44 【4.3】:39 モルヒネの内服で嘔吐がひどいとき、内服治療にこだわって、モルヒネからレペタン内服に切り替えると、さらにひどい嘔吐をきたす場合もある。注射あるいは硬膜外鎮痛法を選択するとよい。 ,がん終末期の症状コントロール(1995),,,56 #1 【4.3】:40 淀川キリスト教病院ホスピスの臨床経験では、モルヒネによって嘔気・嘔吐が出現した場合、ブプレノルフィンに変更しても同様の副作用が出現する可能性が高いが、フェンタニールでは出現しにくいと考えられた。せん妄の場合も同様の傾向が認められた。 ,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,73 徐放性でない塩酸モルヒネ製剤と比べ、MSコンチンの吐き気が多いということは十分に考えられる。 参照−【3.2.2】「MSコンチン」 |
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