【4.5】「モルヒネの副作用としての呼吸抑制(過量投与)」
  【4.5】:1
 一般的には、鎮痛に用いる適切量では呼吸抑制はまれである。モルヒネの効果は少量から増量すると、まず鎮痛効果、便秘作用、ときには同時に催吐作用が現れる。もっと多い量になると催眠効果、ついで呼吸抑制が現れる。(参照−【2.2.3】「モルヒネの血中濃度と薬理作用の発現」)したがって、鎮痛効果が得られる経口投与量では呼吸抑制が起こることは皆無に近いため、ワンショットの注射のような危険はない。傾眠は、過量投与を示す最初の症状と考えてよい。少量で鎮痛効果が得られる患者では、比較的少量でも傾眠その他の作用が得られるので、投与初期には注意が必要である。
 万一、呼吸抑制が発生したらモルヒネを減量もしくは中止して、顔を横に向けたり肩枕を使用して気道を確保し、必要ならば酸素吸入を行い様子観察で自然に回復していく。ナロキソンを使用したり挿管を必要とすることはまずない。
,臨床と薬物治療(1990),,58,28

#1
【4.5】:2
 臨床的にはモルヒネ開始後睡眠時に呼吸回数が8回/分以上あれば、問題はない。モルヒネ開始後睡眠時に呼吸回数が6回/分以下となった場合には、覚醒を促したり、場合によってはモルヒネの適量投与も含め、投与量を再検討する必要がある。
,わかるできるがんの症状マネジメントU(2001),,,51

 
【4.5】:3
 オピオイドの過量投与による副作用発現には一定の方式がある。まず痛みがある間(除痛に必要な投与量以下)は呼吸抑制などの副作用は発生しない。痛みが消失した後(除痛に必要な投与量以上)で、縮瞳あるいは傾眠傾向となり、これと相前後して呼吸数が減少してきたら注意警報である。したがって、オピオイドが投与されている患者では縮瞳、傾眠傾向の有無及び呼吸数を必ずチェックする習慣をつけるべきである。
,がん患者の痛みの治療(1994),,,86

#1
【4.5】:4
 モルヒネの過量投与と治療法
 (1)モルヒネやフェンタニルなどのオピオイドの過量状態では、意識低下や傾眠を伴う呼吸数の低下が見られ、ゆっくりで大きな呼吸になる。
 (2)意識低下が著しくても、呼吸数が低下していなければオピオイド以外の原因を考える。
 (3)オピオイドの呼吸抑制は、呼吸苦がなく呼吸数が減少する。呼吸したくてもできないように抑制されているのではない。
 (4)オピオイド投与中の患者で、睡眠中には呼吸数が10回/min未満になることはよくある現象。治療は不要のことが多い。
 (5)オピオイドの呼吸抑制にはナロキソンを少量ずつ投与する。ナロキソンは呼吸抑制→鎮静→鎮痛の順に用量依存に拮抗する。
 (6)激痛や退薬現象を生じないように、呼吸数の回復を基準に行う。
 (7)ナロキソンの半減期を過ぎて呼吸数が再度減少しなくなるまで十分に観察する。
 (8)オピオイドの再開は意識レベルが十分になった時点以降に、少なめの量で開始しレスキューを併用するが、痛みが生じるまで待つ必要はない。
,がん疼痛治療のレシピ(2002),,,93

#1
【4.5】:5
 モルヒネ投与の限界として強い眠気あるいは傾眠が1つの指標とされているが、あまりにも主観的、曖昧な症状である。そこで、宮城県立がんセンターでは呼吸数と縮瞳を指標としている。睡眠時の呼吸数が10回/分以下あるいは瞳孔径が3mm以下になれば警戒、呼吸数5回/分以下あるいは瞳孔径が2mm以下は中止としている。
,疼痛コントロールのABC(1998),,,318

#1
【4.5】:6
 モルヒネでは呼吸抑制が最大となるのは静注後5〜10分、皮下注と筋注では注射後30分〜90分、硬膜外投与では遅発性呼吸抑制として知られるように投与後4〜12時間後に呼吸抑制が生じる。
,オピオイドの基礎と臨床(2000),,,11

#1
【4.5】:7
 呼吸抑制が過量によるものか、腎機能低下に伴うものかを判断する。腎機能低下が原因であれば、フェンタニルパッチに変更すべきである。
,がん疼痛治療のレシピ(2002),,,94

 
【4.5】:8
 モルヒネによる呼吸抑制は非常に少ないが、初期投与量を多くしたり、坐薬を使うと現れやすい。(初回モルヒネ坐薬30mgは危険である)ただしモルヒネを使用している間は代謝も低下するため呼吸数が減少しても、気道が確保されて肺に病変がなければガス交換は十分に保たれていることが多い。
,モルヒネの副作用対策(1990),,10
,最新医学(1990),45,8,1617

 
【4.5】:9
 モルヒネの投与によって、呼吸数が10回/分以下になると呼吸数のチェックを頻繁に行うよう指示し、6回/分以下になると、念のため動脈血液ガスの検査を行うようにしているが、検査の結果、PaCO2が50mmHg以上あることはきわめてまれである。さらにPaCO2が50mmHg以上ある場合でも、「深呼吸をしなさい!」と呼びかけると、モルヒネによる呼吸回数の減少の場合は必ず応じるので、まず深呼吸励行を先行すべきである。拮抗薬の使用は深呼吸励行の呼びかけにもかかわらず、PaCO2が55mmHg以上が持続する場合と考えられるが、拮抗薬の効果時間は短いので再び呼吸抑制がくるようならば人工呼吸に移行すべきである。
,がん患者の痛みの治療(1994),,,95

 
【4.5】:10
 臨床的にはモルヒネの薬理作用のうち、呼吸抑制、嘔気、眠気は非常に耐性ができやすく、鎮痛と止瀉は形成されにくい。
,癌疼痛治療におけるモルヒネの使い方(1991),,47

 
【4.5】:11
 ロルファンはモルヒネによる呼吸抑制に通常1回1mgを投与する。モルヒネの多いときはその量の1/50量が通常量。呼吸数が10回/分以下になったら筋注、または静注。1回の注射で2〜5時間作用するが、呼吸抑制が長時間の場合はIVHなどに混ぜる。
,癌の痛みハンドブック(1992),,106

 
【4.5】:12
 呼吸抑制時のナロキソン投与法
 モルヒネの長期投与をしていないときはナロキソン0.1〜0.2mgを静注する。長期投与をしていたときは0.01mgを10倍希釈液で1〜2分かけてゆっくり静注。以後、呼吸回数が10〜20回/分を維持できるように0.005〜0.01mgを必要に応じて追加する。数日以上麻薬の投与を受けている場合には、ナロキソンの急速投与で退薬症状が出る可能性がある。ナロキソン投与で痛みが出現してきたら投与を中止する。ナロキソン投与で呼吸がいったん回復しても、1時間以上は観察を続ける。1時間を過ぎて呼吸が安定してくれば、ほぼ安全と考えてよい。ただし、MSコンチンやアンペックなどのように作用が持続する薬剤の場合には、作用時間が切れるまで注意が必要である。
,痛み治療マニュアル(1993),,,55

 
【4.5】:13
 モルヒネによる呼吸抑制と判断された場合、製剤やモルヒネ投与量の違いによらず、ナロキソンの1回投与量は0.01〜0.02mg、通常0.01mgの静注で呼吸回数は速やかに増加する。呼吸数が増加しても目標(呼吸数10回/分)に達しない場合は数分ごとに追加投与する。また、呼吸数が目標値に達しても再び減少するようであれば同量を繰り返し投与する。この治療法では、血液中の過剰なモルヒネが多いほどナロキソンの作用時間は短くなり、場合によっては数分で再び呼吸数の低下がみられるが、繰り返し投与することで徐々に効果が延長してくる。投与中に患者が痛みを訴えたなら、ナロキソンの投与量を半減する。
,緩和医療学(1997),,,58

 
【4.5】:14
 ナロキソンの投与は過剰投与にならないように効果発現まで少量(0.1mg)ずつ、2〜3分毎に静注を繰り返すようにした方が安全である。患者が興奮状態になることがあるので血管確保したのち行うことが望ましい。
,ターミナルケア(1995),7,1,33

*5
【4.5】:15
 モルヒネの過量投与の治療法
 ナロキソンによる治療を目標は呼吸数10〜16回/分で痛みが出現しない状態を維持すること。モルヒネの静注では投与直後が最高血中濃度となり、過量投与の症状も投与直後がピークと考えてよい。ナロキソンの作用時間を過ぎても呼吸数が安定していればほぼ安全と考えてよいが、数時間は十分な観察を行う。MSコンチンの場合、水分の経口投与はモルヒネの吸収を促進する可能性が高いので、観察期間中は飲水や経口摂取を避けるべきである。モルヒネの投与再開は観察期間の後、患者に傾眠などがみられなくなった時点を指標とする。
,ターミナルケア(1996),6,1,31
   
 

 

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