【7.32】「持続性の不穏、せん妄、混乱」
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【7.32】:1
 せん妄は急性に発症し、数時間から数日間持続する、一過性かつ通常可逆性である、全般的認知機能の障害を特徴とする。末期癌患者の3割にせん妄がみられる。特に、高齢者や脳腫瘍・脳血管障害のある患者や、全身衰弱が進行した患者ではせん妄が出現しやすい。
 この際、原因を鑑別することが重要となる。特に、高カルシウム血症によるせん妄が見逃されることがあるので注意する。また、薬剤性のせん妄にも十分注意する。薬剤性のせん妄は原因薬剤の減量・中止で改善する。淀川キリスト教病院ホスピスでの調査では、モルヒネと抗コリン作動薬である臭化水素酸スコポラミン(ハイスコ)によるものが多かった。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,26

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【7.32】:2
 せん妄は急性に発症し、数時間から数日間持続し、一過性かつ通常可逆性で、全般的認知機能の障害を示すことを特徴とする。せん妄がみられたら第一に、使用薬剤を入念に検討する。せん妄出現以前に、新たに薬剤を開始したり使用薬剤を増量していないかを確認して、せん妄の原因となりうる薬剤がないかを確認する。緩和医療においては、モルヒネと抗コリン薬が多いとされている。薬剤性が疑われる場合、その薬剤を中止もしくは他の薬剤に変更する。薬剤性が除外されたら、他の器質的な原因を探し、可能ならば原因治療を行ってみる。高カルシウム血症や感染症、脳転移、高血糖などは見逃されやすいので注意する。器質的な原因を除去することが難しい場合には、以下のような向精神薬を投与する。
 (1)セレネース1日0.75〜4.0mg 分1寝前〜分2朝寝前または1回5mg 1日 1〜2回点滴静注または皮下注
 (2)ウインタミン1日12.5〜50mg 分1寝前〜分2朝寝前または1回12.5mg 1日1〜2回点滴静注
,死をみとる1週間(2002),,,27

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【7.32】:3
 癌患者のせん妄は病因論的には非特異的で、さまざまな原因により引き起こされる脳の全般的な機能不全であり、その原因に、代謝障害、感染、心血管系の疾患、頭部外傷、脳腫瘍などの身体的要因や、抗不整脈薬、抗生剤、抗コリン性薬物、抗けいれん剤、降圧剤、抗パーキンソン薬などの薬剤性の要因がある。
 進行・末期癌患者におけるせん妄の増加は、癌の進行に伴う身体症状の悪化やそれに伴う治療内容の変化などの複数の要因が複雑にからみあった結果であり、そのため半数以上が原因の同定が不能である。一方、判明した主要因として、Brueraらは薬剤性のものが最も多かったとしている。癌治療の現場で使用される薬物では、メソトレキセート、フルオロウラシル、ビンクリスチン、ビンブラスチン、ブレオマイシン、カルモスチン、シスプラスチン、L-アスパラギナーゼ、インターフェロンなどの抗癌剤や、種々のステロイドなどは、せん妄の原因となることが知られている。
 モルヒネをはじめとした強オピオイドや神経因性疼痛の緩和に用いられる三環系抗鬱薬も、せん妄を引き起こすことが知られている。三環系抗鬱薬は、強い抗コリン作用を有するためにしばしばせん妄の原因となる。通常は100mg/日以上の高用量で発症することが多いが、全身状態が不良な癌患者では、低用量でも発症することがある。
,麻酔科診療プラクティス 4癌性疼痛管理(2001),,,153

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【7.32】:4
 せん妄、混乱の治療 

(1)内服可能な場合
 軽症の場合には、抗鬱薬のレスリン25〜50mgあるいはテトラミド1O〜30mgを夕食後ないし就寝前に一括あるいは分割投与する。薬物代謝の遅延が予想される重症患者や高齢者に対しては、血中半減期の短いグラマリール25〜100mgも使用しやすいが、副作用としてパーキンソン症候群が現れることがあるので、多少注意を要する。
 中等症以上の場合には、鎮静効果のより強い抗精神病薬を選択する。従来は、セレネース1〜3mgの夕食後ないし就寝前に一括あるいは分割投与が一般的であったが、最近は副作用のパーキンソン症候群がより少ない第二世代の抗精神病薬であるリスパダール1〜4mgが頻用される傾向にある。いずれの場合にもベンゾジアゼピン系の睡眠薬を併用してよいが、鎮静作用よりもむしろ逆説的にせん妄を助長することがあるので、その場合には中止したほうがよい。

(2)内服困難な場合
 経口摂取ができないような身体状態にある場合には、血圧は若干低下するものの呼吸抑制がほとんどないセレネース1アンプル(5mg)を、生理食塩水100mlで希釈して緩徐に点滴静注する方法が最も安全である。心拍呼吸モニタリング下であれば、せん妄の重症度に応じて1日4アンプル(20mg)程度まで増量可能である。セレネース投与が1週間以上にわたる場合には、副作用としてのパーキンソン症候群による嚥下障害から誤嚥性肺炎につながりやすいので、抗コリン薬のアキネトン1〜2アンプル(5〜10mg)を併用点滴してパーキンソン症状を予防するようにしたほうがよい。
 セレネースを増量しても入眠が得られない場合には、それに追加してドルミカム5〜10mgあるいはサイレース1〜2mgを生理食塩水100mlで希釈して入眠が得られるまで緩徐に点滴静注する。ただし、これらの薬剤には呼吸抑制作用があるため、心拍呼吸モニタリング下での投与が原則である。
,わかるできるがんの症状マネジメントU(2001),,,301

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【7.32】:5
・ハロペリドール(セレネース)
本剤は、興奮を伴う患者に第一に選択すべき薬である。通常の投与開始量は1〜2mgの経口ないし皮下注射による投与であり、必要に応じて投与を繰り返す。就寝時のみ、あるいは12時間ごとの定時投与がしばしば有効である。ときには24時間にわたる投与量の総計が30mgほど必要なことがある。

・クロルプロマジン(ウインタミン)
鎮静効果が必要なときには本剤が使われる。通常の投与開始量は経口ないし筋肉内注射(クロルプロマジンは刺激性があるので皮下注射すべきではない)で10〜50mgである。患者の状態が落ち着くまで1時間ごとに投与を繰り返し、次いで8〜12時間ごとの投与に移行する。

・レボメプロマジン(ヒルナミン)
本剤はクロルプロマジン(ウインタミン)よりも鎮静効果が大きい。外来患者ではしばしば体位性低血圧が起こるので、就床したままの死に近い患者でもっとも有用と心得ておく。興奮を示す患者での標準投与開始量は10〜25mgで、必要なら患者の状態が落ち着くまで1時間ごとに投与を繰り返す。その後の維持量は12時間ごとで十分なことが多い。
,終末期の諸症状からの解放(2000),,,48

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【7.32】:6
 ドルミカムは重篤な不穏や苦痛に対して世界的にますます広く用いられるようになってきている。オピオイドやスコポラミンと同等の作用があるが皮下組織に刺激性がない。速効性かつ短時間作動性。痙攣、不安、呼吸困難、攣縮に有用。ドルミカムの強力な呼吸抑制作用に対する注意が必要。
(1)5〜10mg皮下注、筋注のワンショットがまず勧められる。
(2)ついで1.5mg/時で持続皮下注を開始。
(3)30〜60分で期待されるほどの症状緩和または鎮静が得られないときには、3mg以上のワンショットを行い、注入速度を0.5〜1mg/時上げる。
(4)典型的な最終使用量は1〜3mg/時であるが20mg/時にまで増量した例が報告されている。
(5)早急に効果を得るには、経験あるスタッフが最初に集中して効果をモニターし、使用量の調整を行うことが必要である。
,ターミナル・ケアの症状緩和マニュアル(1998),,,104

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【7.32】:7
 末期における混乱にセレネース
内服:1回0.5〜1mg、1日3〜4回。
持続皮下注又は持続点滴:10〜30mg/日。少量から開始して、状態をみながら投与量を調節する。しかし、筆者らの調査では向精神薬を投与しても有効率は1/4であった。
,緩和ケアマニュアル(ターミナルケアマニュアル第4版)(2001),,,197

*5
【7.32】:8
 ヒルナミンは持続性の不穏に対し鎮痛、制吐、鎮静作用を併せ持つので有用。用量は20mg筋注を30分ごとに繰り返すか、60mg筋注を8時間毎必要に応じて。50〜150mg/日で点滴静注可能。呼吸抑制が問題になる場合でも呼吸抑制がない。高価。外来では起立性低血圧を起こすこともある。皮下組織に刺激性を持ちうる。
,ターミナル・ケアの症状緩和マニュアル(1998),,,104

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【7.32】:9
 近年、終末期の過活動型せん妄が鎮静以外の手段によって緩和されうることが示唆されている。エドモントン緩和ケアチームは、終末期においても、モルヒネのクリアランスを促進するための輸液とオピオイド・ローテーションを積極的におこなうことで、過活動型せん妄に対する鎮静を減らすことができたと報告している。聖隷ホスピスにおいても持続的な深い鎮静の施行率は4年間に15%から5.9%に低下している。オピオイド・ローテーション、(体液過剰による苦痛のバランスがとれるならば)輸液、および、標準的な精神医学的治療は、過活動型せん妄に対する鎮静の必要性を減らす有力な手段の一つになりうる。
 その根拠としては、以下の点が上げられる。
(1)腎不全が多くの終末期患者のせん妄に併存していること
(2)腎不全ではモルヒネ代謝産物の蓄積により神経筋過敏症候群を生じる可能性があること
(3)薬剤(とくにモルヒネ)の関与したせん妄は過活動型せん妄を生じやすいが治療に反応すること
(4)フェンタニルやオキシコドンはモルヒネにくらべて認知機能に与える影響が少ない可能性があること
(5)せん妄に対する抗精神病薬の有用性は確立されていること
 せん妄は、たとえ終末期であっても、原因が取り除かれるならば治療可能な病態である。疼痛に対する治療では、必要とされるモルヒネが投与されていないこと(under-treatment)が強調されてきたが、効果が乏しいにもかかわらずモルヒネが盲目的に疼痛に対して投与されせん妄を生じていること(over-treatment)を問題視する見解が近年増えている。過活動型せん妄は鎮静の対象症状の一つであるが、鎮静を施行する前には、すでに発刊されているガイドラインにしたがって治療可能な要因について十分検討し、精神医学的治療をおこなうことが必要であると考えられる。
,緩和医療(2001),3,3,32
   
 

 

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